雨の多いところで

 初めてアイスランドを訪れたときのが6年前。
 そのとき降った雨は、掛けていた眼鏡の汚れをきれいに落とした。

 それから6年が経とうとする今では、雨に振られたあとには水痕がうすく残ることを知っている。あのとき掛けていた眼鏡は、日本からの30時間の移動の最中にベトベトに汚れていたのだろう。それに気づかないでいて見るものは、色眼鏡を通した光景ばかりだったかもしれない。

 傘を差さずに雨のなかを歩き、ずぶ濡れになることにすっかり慣れてしまう頃には、北極圏の直ぐ下にある島国が理想郷ではないと気づいていた。

 はじめは生まれ故郷との常識の違いに腹を立て、次第に諦め、そして受け入れていく。

 この土地で自分は異邦人なのだと意識せざるを得ないことが多いことは確かだけれど、アイスランドの住み心地はよいか、と訊かれたら、「住めば都」と答えることが多い。

 物価は高く、物の選択肢も娯楽も少ない。
 都会の刺激に慣れた人には、この国は退屈でしかないらしい。

 それでも僕は住み続けている。

 アイスランドで目にし、そして僕のなかで一定の場所を確保したものもある。

 それらについて書いてみようと思う。これからアイスランドが知られていけば、いずれ誰かの目に触れ、そして語られることもあるだろうが、たぶん、殆どのものはまだ日本語で書かれたことのないものだ(実は、日本語の練習(復習?)のためでもある)。

 本や絵や小物、それ以外の何かについても、気がついたときに書いていくことにした。